放射線透過試験(RT)の準備をしよう

 溶接部内部の欠陥の探傷にRTが最も有効であることは知っていても、その原理や詳細についてはよくわからない、という方は意外と多いのではないでしょうか。 
 それは、放射線が人体に有害で、安全な施行のための資格や防護設備など専門業者でないと分かり得ないことと無関係ではないと思います。しかし、この試験を仕様として受け入れる以上、専門業者との適切なコミュニケーションや、無駄な時間の浪費の低減のためにも最低限の知識は持っておきたいものです。本項では、耐食鋼・耐熱鋼のRTにおける事前のチェックポイントをいくつか掲げますので、この一助としていただきたいと思います。

 なお、最近では「デジタルラジオグラフィ」というDX関連技術も普及していますが、ここでは従来型のフィルムを用いたRTを想定してご説明します。

適切な透過度計はあるか

 ニッケル合金の溶接部にRTを行う場合、真っ先に確保しなければならないのは、試験材質もしくはそれと同等の吸収係数を持った材質でできた透過度計(ペネトラメータ、ペネトラ)です。また、ペネトラには適合する材厚の範囲があり、試験対象物の母材厚がその範囲内かも確認しなければなりません。さらに、複数箇所を同時に試験して効率を上げたいなら多枚数準備しておきたいところです。こうした場合、新たに購入もしくは製作することとなるので、あらかじめ確認の上工期に織り込んでおく必要があります。

溶接線を特定する番号は決めたか

 RTの結果を記録するためには、溶接線の位置を番号で特定しなければなりません。このため、一定のルールに従って「溶接線番号」を採番し、図面に書き入れるか検査要領書に図示する必要があります。また多くの場合一つの溶接線番号に対し複数回照射しますので、溶接線番号に追番の上RTフィルム番号とすることとなりますが、判別のため都度これをフィルムに写し込まなくてはなりません。一方この番号は、試験対象の漏れがないよう消し込みチェックを行う時にも利用できますので、分かりやすい採番とすることが推奨されます。

線源はなにか

 薄・中板であれば放射線の線源にはX線(レントゲン)を用いるのが通常です。しかし、鋳造品ないしは極厚板の場合、あるいは吸収係数が大きい材質の場合、X線では照射能力が不足し試験の具備すべき条件を満たせないことがあります。これを解決するためには、イリジウムやコバルト同位体などによるγ(ガンマ)線を用いることになりますが、これらはX線と比較しても放射エネルギが著しく高く、安全のため大規模な防護施設に持ち込む必要があるか、極端に試験場所が限定されたりします。これは当然ながらコストや納期に大きなインパクトを与えます。試験対象物の材質と寸法をよく確認し、事前にRT業者に線源の種類などを確認しておきましょう。

撮影ゾーンを確保できるか

 先述の通り、放射能による人体への被害を避けるためには所定の試験場所に持ち込まなければなりません。しかし、納期の都合などで製品の加工もしくは保管場所でRTを行う場合は、立入禁止を明示した縄などを張るなどして、安全距離が確保された撮影ゾーンを設営しなければなりません。また、不用な異物の混入や振動などがないよう、事前にアナウンスの上撮影中は近隣での加工を自重するなどの配慮もすべきです。このため、休憩時間や夜間・休日などを有効に活用できるような、製造現場、RT業者協調しての作業管理が必要です。

立ち入り禁止

検査場所は適切か

 放射線を透過した溶接部内部の状態はフィルムに投影され、これを現像することで判定することができるようになりますが、目視検査以上に照度が重要な環境条件となります。このため、シャーカステンなどの照明器具の準備が必要ですが、これに加え、判定を誤らせるような塵芥の混入がなく、多数枚のRTフィルムが整然とファイルできる清潔な場所とすることも考慮すべきです。このため、製造現場と独立した検査場所が理想であると言えるでしょう。

 「そんなことは業者の仕事じゃないか」と言われるかもしれませんが、RT業者も適正な試験のため試験環境については妥協せず要求してくるはずです。そんなとき、本項のような事情をよく理解の上協議することが大切になってくると思います。

 

溶接部内部の非破壊検査

RTフィルムで対話する