第 十六話 大喜利〜こんな上司はいやだ

 今日はキンヤの高校同期の忘年会です。

 久しぶりの開催とあってほどほど盛り上がっていましたが、不意に一人がこう呟きました。「結構仕事、きついんだよね」。「年忘れ」との開放感もあってか、これを皮切りに仕事に対する愚痴や上司をディスるエピソードが目立ってきました。曰く「性格合わない」「リテラシーレベル最低」「解像度低い」「現場見てない」「ありゃハラスメントの塊」と散々です。
 この事態に、このままエスカレートするのはまずいと直感したキンヤは一計を案じ「じゃあさあ、いっそ大喜利にしちゃおうよ。お題は・・・『こんな上司は嫌だ』だな」。するとどこからともなく声が上がりました。

オリジナリティのない『いつも誰かのまねージャー』
四六時中納期に追いまくられてる『あせリーダー』
失敗続きで冷汗ばかりの『ハンカ・チーフ
オヤジギャグがなかなかつまらない『さぶっリーダー
「いいぞいいぞ」。がやがや

考えすぎの『体面ばかりがき係長
待って待ってが口癖の『自重次長
そうだそうだとあいづちしか打てない『そうだん役
「うーん、ちょっと苦しいなあ」。どやどや。

いつ仕事してるかわかんない『なんにも専務』
机についての読書しかすることがない『本部長
そんなの当たり前だとやたら振りかざす『顧問センス』
「そりゃいいすぎだろ」「でもほんとにいるよお」。うーん。

 出尽くし感漂う頃、口開けにつぶやいた者がいささか青ざめた顔をして「ぼ、僕からも、いいかなあ」と言いました。「なんだい」。

なにかと謝ってばかりの『ちん社長』
 あ、と彼の現在の境遇に思い当たった者は一斉に口をつぐみました。その気配を読んだキンヤはすかさず居住まいを正し「ま、ここまでかな」と締めました。「さて飲み直すか」と別の声も上がった途端、店のBGMが威勢の良い曲に変わりました。

どれだけがんばりゃいい 誰かのためなの?分かっているのに 決意は揺らぐ
結末ばかりに気を取られ この瞬間を楽しめない メマイ
夢じゃないあれもこれも 今こそ胸をはりましょう

すると一人二人と立ち上がり、酔った勢いで声を張り上げる者も出てきました。
「いっちょうやるかあ」。

ホントだらけあれもこれも その真っただ中 暴れてやりましょう
そして羽ばたくウルトラ・・・

「シャイン!」。Hey!!!と全員が拳を突き上げました。

 最後はなんとか大盛り上がりで会はお開きとなりましたが、帰り道、キンヤは「これでよかったのかなあ」と酔い覚めの頭で夜空を見上げました。

B’z「ultra soul」
作詞:稲葉浩志

2025年12月15日

急がば回れ