ニッケル合金製溶接組立品を設計する

 ハステロイをはじめとするニッケル合金を用いて溶接組立品を製作する時は、耐食用耐熱用それぞれの用途に応じた適切な設計を行なって構造などを決めていく必要があります。そのプロセスは多種多様ですが、ここでは代表的な例に絞りその概略を見ていきたいと思います。

耐食合金の場合

 耐食合金は主として、化学、医薬品・食品、半導体産業などで用いられていますが、ここでは石油化学プラント向け圧力容器を例に挙げてみます。

適用法規・準拠規格の確認

 圧力容器の構造や施工について定める法規には下記のようなものがあります。お客様の要求仕様を確認の上、各規定に従った設計を行います。

 なお、これらの多くは下記の公的規格を引用しています。

JIS B8265 圧力容器の構造−一般事項

 ただし、ハステロイをはじめとするニッケル合金の規定はさほど多くないので、法規によっては直接下記の米国規格を引用する場合もあります。

ASME Boiler and Pressure Vessel Code Section VIII Division 1

 なお、法規の適用がない設備であってもこれらの規格を準拠することが多いようです。

材料の選定

 まずは、↓のような情報をもとに使用材料の候補を選んでおきましょう。

ニッケル合金の選びかた(強さ)

ニッケル合金の選びかた(腐食環境)

ハステロイの賢い選び方

 次に、前項の法規や規格で規定されている材料かどうかを確認します。材料によっては使用できる条件が限定されている場合がありますので注意が必要です。

強度計算の準備

 圧力容器は高圧の気体または液体を内包するため、ほとんどの場合適用法規や準拠規格に基づく耐圧計算が必須となります。このため、許容引張応力表が規定されている材料の中から選定することになりますが、設計温度は個々の材料の設計上限温度を超えてはなりません。

耐食鋼・耐熱鋼の許容引張応力

耐食鋼・耐熱鋼の設計上限温度

 さらに、負圧条件やジャケット構造など外圧設計を要するものは外圧チャート、熱交換器の伸縮継手設計を要するものには0.2%耐力・線膨張係数などの規定があるものしか選定できません。

注意!
 適用する法規が引用する公的規格で規定された材料を用いる場合、図面やミルシートに表記する材質記号もその規格と同じ表記とする必要があります。つまり「ハステロイ」などの商標のみでは製造許可などの手続きの際問題となる場合があります。

一圧で「ハステロイC-22」を使用する表記の例
「ハステロイC-22」         ✖️
「NW6022(ハステロイC-22)」    ◯(JIS材ミルシートの場合)
「SB-575N06022(ハステロイC-22)」 ◯(ASME材<板>ミルシートの場合)

 なお、圧力容器用途では「ASTM規格」のミルシートでは用いることができません。ASME表記とすることをあらかじめ材料メーカーに伝えましょう。また、市中在庫を用いる場合は特に注意が必要です。

耐熱合金の場合

 耐熱合金は、エネルギー、製鉄、自動車部品、航空・宇宙、エネルギー業界などで用いられています。耐熱用途の場合は、前述の圧力容器の条件に該当しない限り、特段の制限なく材料を選定することができます。ここでは炉設備などに使用される溶接組立品をイメージしてご説明します。

材料の選定

 材料の選定にあたっては↓のような情報が有益であると思われます。

耐熱合金について

乾食の種類を知る

 耐食合金の場合は腐食試験片を実機に装着したり、類似環境を模して加速試験を行うことで選定材を絞る、といったやり方が可能ですが、耐熱合金の場合は再現性が難しく評価に著しく時間がかかるため、文献や類似設備の実績から判断することが多いようです。

構造と強度の検討

 構造については、圧力容器のような公的規格で定められたものはありませんが、熱歪みが影響して割れの発生を誘発しないよう、粗い仕上げによる切り欠きや閉じられた溶接による拘束などが起きないような設計は必要となります。
 また、耐熱鋳造品を耐熱合金製板金組立品に改造し軽量化などを図る場合は、使用環境下での温度条件による熱変形や突合せ溶接の余盛形状、すみ肉溶接部のスムーズアップなどに特に注意を払う必要があります。

試験・検査の仕様決定

 法規制やお客様要求による試験・検査の仕様は図面や仕様書に明確に記載します。その際示す試験・検査要領ならびに判定基準については、社内の検査部門もしくは起用する検査会社と事前にその可否や内容をよく確認の上決定しましょう。

 

ニッケル合金製製品の設計で押さえておくべきポイント

ニッケル合金のクラッド鋼板について