溶接施工法を確立する

 溶接は特殊工程の代表例としてよく知られています。この特殊工程を管理するためには、おおまかに「人」「設備」「方法」を実際の施工前に明らかにし、所定のルールに従って格付けの上規定しておくことが求められます。このうち「方法」にあたるのが溶接施工法(まれに溶接施行法ともいう)です。 本稿では溶接施工法の基本についてご説明したいと思います。

溶接施工の計画

 そもそも何のために、またどのような方針で溶接施工を行うかを計画します。実際に施工する予定のない溶接を格付けするのは経営資源の無駄遣いとなってしまいます。一方、実機の製作のため適用法規や準拠規格の規定上必要となるものや、今後の事業戦略上新たに必要となるものは追加する必要が出てきます。
 溶接確認項目をよく理解し、必要不可欠な溶接施工法に絞り込んで計画することが大切です。

pーWPSの作成

 確認すべき溶接施工法が計画できたら、溶接施工法(確認)試験を適正に行うために、各要件を織り込んだ溶接施工要領書(pーWPS)を作成します。この様式と要件の定義・範囲などは適用法規や準拠規格に基づいて定まっているのできちんと理解しておきましょう。
 なお、このpーWPSは後述の実機用のWPSとは位置付けが異なりますので混同しないように注意しましょう。

溶接施工法(確認)試験の実施 

 溶接施工法を確認する試験(WPQT)はいくつかの規格で規定されており、適用を目指す対象に応じて準拠のうえ実施するようにします。非破壊試験や機械試験など外部委託する工程がある場合は準拠規格などを事前に示して対応の可否を確認するようにします。

JISB8285  圧力容器の溶接施工方法の確認試験

JISZ3040 溶接施工方法の確認試験方法

ASME Sec.IX Part QW Article II Welding Procedure Qualifications

 なお、日本の国内法規で溶接施工法試験が要求される場合がありますが、圧力容器や配管用では多くの場合JISB8285を引用しています。

PQRの作成・承認

 溶接施工法確認試験で得られたデータや試験結果は、適用する法規や規格で規定された様式で溶接施工法確認試験記録(PQR)にまとめます。さらに、溶接作業記録や試験・検査記録、ミルシート、溶接士資格証の写しとともに一冊に製本します。
 また必要に応じ、お客様や指定検査機関の確認とサインをもらっておくとPQRにより信頼性を持たせることができます。ただし、溶接技術管理の基本は自主管理であり、通常は社内の溶接管理技術者がサインすることで問題ありません。

pーWPS&PQRのデータベース化

 出来上がったPQRは一定の社内ルールに則って採番しファイルします。この時、重要なパラメータを示すインデックスを作っておくと後日参照しやすく、お客様に対して施工可能範囲を説明する際に役立ちます。

実機の溶接施工への適用

 以降、新たに溶接設計するときには、前項でまとめていたデータベースを用い溶接要領書(WPS)を作成します。これは実機用のWPSなので、試験用のpーWPSとは異なるため、実機の製作図面からピックアップして新たに作成することとなります。このWPSの要件でどのPQRの承認範囲でもカバーできない溶接継手が存在する場合は、新たにWPQTを実施しPQRを作成しなければなりません。
 このようにWPSに紐付くPQRのことをSupporting PQRと呼びます。

 次項はこれらをまとめた上で、ハステロイを始めとするニッケル合金における留意事項などをご説明します。

溶接士の資格について

溶接施工法のフローまとめとニッケル合金におけるカンドコロ