第 七 話 汚れつちまつた悲しみは

 さて、仕事始めです。技術部のカイキは訳あって早めに出社しました。

「年末は忙しくて大掃除ができなかったからなあ。まずは例のところからお片付けするか」。書類の整理が苦手なカイキの机の周りにはいつも書類が折り重なっています。中でもカイキが書いた図面や仕様書の下書きへ派手に赤ペンを入れた束が目立ちます。上司の目があるとこうしたものは結構捨てづらいものです。なのでカイキは仕事始めに早出して処理することにしたのです。ゴミ箱代わりに段ボール箱を床に置き「よーし」と気合を入れたまさにその時、くだんの上司アイダ課長が出社してきました。「あ、やべっ」。

「あけましておめでとう。あれ?何してる」「あ、遅まきながら年末の大掃除を」「おいおい、せっかくのお宝を・・・」。カイキは思わず手を止めました。「でも終わったものは捨てていかないとスペースが」。
 課長はため息をつき、捨てようとしていた図面を摘み上げこう言いました。「ここ。この間違いいつも繰り返してるよね」「あ、それは」。そしてコメント部を指しこう続けました。「いいかい、僕がコメントをつけるときには、必ず余白に『なぜそうなのか』を書くようにしているんだ」「はい・・・」「でも君はただ直してるだけでほとんど読んでないよね」「直すのに時間がなくて」。
 課長はまたため息をついてこう言いました。「だから間違いを繰り返すんだよ。忙しいときにいちいち読んでられないのはある程度理解できる。だからこそ、今のような機会にはぜひ読み返して欲しいんだ。そして次に活かしてね」。一言もありません。

 そこでカイキはコメントの要所要所を写真に収めることにしました。課長は「撮影するだけでなく、自分なりにキャプションをつけておくとなおいいんだけどね」と付け足しました。

汚れつちまつた悲しみに 今日も小雪の降りかかる
汚れつちまつた悲しみに 今日も風さへ吹きすぎる
雪を払って風よけて
汚れつちまつた悲しみは 明日の宝となりあがる

2023年1月9日

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修正